誘因事故(非接触事故)は、どう対応すれば?
はじめに
警察に届け出た交通事故にのみ、自動車安全運転センターに交通事故証明書の申請をすることができ、同センターから交通事故の発生日時、場所、当事者の住所氏名、事故車の登録番号、事故類型、自賠責保険関係等が記載された、交通事故証明書が発行されます。この証明書の事故類型の中に、「車両単独」・「転倒」という区分があります。これは他車(人)等に接触することなく単独で転倒した場合です。更に交通事故証明書の備考欄に「誘因者」として、運転者と車の情報が記載されている場合があります。この場合は、原因を誘った事故となり、誘因事故(非接触事故)として他人に損害を負わせた場合、その不法行為についての損害賠償責任を負うことになります。
今回は、誘因事故により、怪我をしたオートバイの運転手さんからの相談を紹介します。
事故の内容
相談者の会社員Aさん(54歳・男性)は、オートバイを運転し出勤途中、片側2車線の道路で歩道寄りの第1車線を直進中、第2車線の右斜め前方を乗用車が直進していた。その乗用車が左側駐車場に入るため、合図をしないで急に左へ進路変更してきたため、Aさんは危険を感じ咄嗟に急ブレーキを掛けたところ、バランスを崩し転倒(乗用車との接触なし)、左鎖骨骨折の重傷を負ったという事故です。相談内容
事故直後Aさんは、救急車で病院に収容され、治療後に警察で事情聴取を受けた際、警察官から、「損害賠償の民事問題は介入できないので、お互いによく話し合って解決してください」と言われました。相手方は、乗用車と衝突していないし、進路変更する前は、安全確認をして変更したと主張するうえに、「Aさんが、スピードを出し過ぎていたため、ビックリして急ブレーキを掛けて転倒したのであり、単独事故ではないか」と、話し合いは平行線のままでした。
更に、「一応保険会社には事故報告しておきますが、後は保険会社に一任します」と取り合ってくれないので、今後どうしたらいいかと相談に来たのです。
相談者に対するアドバイス
(1)今後の治療費についてア | 保険診療(健康保険・労災保険)か自由診療(自賠責保険・自動車保険)の選択(治療費の単価は点数制により計算され、それぞれにより異なります) ・健康保険1点10円で計算 ・労災保険1点12円で計算(労災認定が条件) ・自由診療1点につき、健康保険・労災保険より高額で計算(過失相殺あり) |
イ | また、労災保険と健康保険の同時適用はできず、いずれかの保険となります |
ウ | 事故の過失割合により、治療費の負担金額が変わります |
非接触事故でも事故を誘因している場合は、接触事故と同様に損害賠償責任が生じることから、損害賠償請求資料を準備しておく必要があります。
ア | 目撃者の確保 誘因事故の場合は、特に第三者の目撃状況が大きく影響します。 |
イ | 事故現場の状況把握 事故直前・直後の状況を記憶(第2車線の乗用車との車間距離、合図の確認等)に基づき、記録に残して、回避措置を講じなければ接触事故となったことの立証ができるようにしておく必要があります。 |
ウ | 治療費、後遺障害等の賠償請求等 当該事故による損害額の立証と既払額の証明書を添付して請求します。 |
各保険請求には、事故が発生したという「交通事故証明書」が必要です。事故取扱警察署の事務手続きにより異なりますが、自動車安全運転センターに申請後、概ね2週間で交付されます。
(4)自分が契約している自動車保険会社に契約内容を確認
自分の自動車保険(人身傷害保険)で過失相殺に関係なく、約款により支払われる場合があります。
(5)被害者等通知制度の活用
この制度は、被害者が検察庁に対し、加害者の刑事処分結果を確認できる制度で、加害者に罰金等の処分が科せられた場合は、裁判所が過失を認定したものであり、損害賠償請求が容易になる場合があります。
相談後の交渉結果等
(1)会社での労災請求が認定Aさんの請求により通勤災害が認定され、3回の手術を含む治療費の自己負担がなく、休業期間中の休業給付も支給され、治療に専念できました。
(2)加害者が刑事処分を受けたことを確認
被害者等通知制度で、相手が罰金を科せられたことを確認し、損保会社と交渉した結果、誘因事故として損害賠償交渉に応じてきた。
(3)後遺障害の認定請求より後遺障害が認定
後遺障害による損害(慰謝料、逸失利益)の賠償請求により、損保会社が損害賠償を認めた。
おわりに
今回の誘因事故で相手の損保会社と交渉の結果、相談者Aさんの過失は10%、相手の過失は90%で話合いが進み、円満に解決したとの連絡がありました。事故直後は、頭が真っ白になり、何から手を付ければよいか分からず、誰もが思い悩む事でしょう。今回の相談内容のように、車同士の誘因事故や自転車が誘因者となり、バイクが転倒した事故、歩行者の飛び出しが誘因となり自転車、バイク等が転倒した事故等が散見されます。特に自転車、歩行者が誘因者となった場合の賠償責任は損害賠償で大変苦労する事が考えられますので、交通弱者である誘因者であっても、対応できる保険の加入をお勧めします。
近年交通事故は減少していますが、一人ひとりが交通ルールを守り、安全運転に努めることが大切です。しかし、交通事故の当事者となった場合は、どうか一人で悩まず、早めに交通事故相談所等を活用し、問題解決を図っていただきたいと思います。
交通安全ジャーナルから抜粋